SLE
SLE2000, SLE2000HFO, SLE2000HFO+
1.特徴 (図;SLE2000HFOの外見写真)(図;SLE200の外観写真
 SLE社の人工呼吸器はバルブレス回路で構成されているので、呼吸回路が完全に解放系になっている。そのため吸気相・呼気相であっても吸気側・呼気側とも閉鎖されない特徴がある。したがって呼吸仕事量が少ない。1990年発売のSLE2000では圧トリガー方式によるPTVが可能である。対象患者は体重8Kgまでである。1995年発売のSLE-2000 HFOでは、ジェットガスのノズルをを呼気弁ブロック内で回転させる方式のHFOを付加できるようになった。1999年にはSLE2000+HFOにパワーアップして体重20Kg(HFOは8Kg)までが対象になった。
2.性能
1)利用できるモード
 CMV    
 PTV
 SIMV
 CPAP
---------------------------------
 +PEEP
 +HFO
 
2)基本データー
サンプリング時間... 10ms
最大吸気ガス流量.
  強制換気............ ? LPM
  CPAP................ ? LPM
最大強制換気数......... 250 BPM
最大SIMV回数......... 250 BPM
最大分時換気量............. 5 LPM程度、HFO+は15LPM程度
3.制御回路、制御機構の解説
1)制御機構の概説
 MPUには80C31(11MHz,8bit)が使用されている。これはタイミング制御とアラームに利用される。圧制御機構はニューマティック回路でなされる。
2)機械的機構の特徴(図;SLE2000の機構概説図
 SLE 2000の呼吸回路はジャクソンリース回路を基本にしている。フレッシュガスは5LPMに固定されている。呼気ブロックに駆動ガスが大量に流れ込むと呼気ブロック内の圧が高まり、呼気側チューブ内のガスが逆流して患者の吸気ガスになる。つまり呼気ブロックはジャクソンリース回路のバッグに相当する。そのため、吸気ガス流量.は5LPMに制限されない。理論的にはディマンド流量に制限はない。
3)ガス流量計測
 ガス流量.は計測できない。換気量も計測できない。
4)吸気バルブ
 吸気バルブはない。
5)呼気バルブ
 存在しない。これに相当するのが呼気ブロックである。
4.ニューマティック回路図;SLE2000HFOのニューマティック回路
 SLE 2000の構成はフレッシュガス回路と呼気ブロック駆動回路より成り立つ。中央配管より供給された酸素、圧縮空気はブレンダーにより酸素濃度が調整される。精度を維持するために、NV-2で7LPMのガスに調整されたガスはブレンダーブリードとして捨てられる。このガスは副次的に酸素センサーに供給されている。フレッシュガスは、レギュレーターReg.3で0.7barに減圧したガスをニードルバルブNV-1で5LPMに調整して造られる。SV2はシステム異常時の大気解放弁で、RV2は異常高圧時のリリーフ弁である。フレッシュガスは圧トランスデューサーで圧が監視されている。フレッシュガスはリストリクターを経由してETコネクターに入力される。呼気ブロック駆動ガスはPEEP/CPAP用と吸気圧(INSP.PRESS)用が別個用意されている。レギュレーターReg.2はPEEP/CPAPをつくるガス流を調整するもので、このガスがノズルを通じて呼気ブロックに噴射される。呼気ブロックよりの排気には限界があるので、噴射によりブロック内圧が上がり、PEEP/CPAP圧が発生する。レギュレーターReg.1は吸気圧(PIP)をつくるガス流を調整するものであるが、ノズルまでに途中SMALL VOLUME CHAMBERとLARGE VOLUME CHAMBERが設けられている。前者は吸気圧のオーバーシュートを防ぐために、後者は吸気圧の立ち上がりを遅らせて吸気波形を暫増波形にするためにある。吸気相ではSV-1が開いて吸気圧をつくるが、暫増波形を選択した場合はSV-3も同時に作動する。呼気相ではSV-1とSV-3はそれぞれのCHAMBERを放圧(Discharge)する。呼気ブロックは、脱着・滅菌可能である。また、可動部分がないのでメンテナンスが簡単である。近位圧は圧トランスデューサーでモニターされていて、トリガー信号を検出する。
 SLE-2000 HFOでは、呼気ブロック内にモーターによって向きを変化させるノズルが設けられている。ノズルよりのガス流の方向が呼気ガスと同方向であれば気道圧は陰圧に振れる、逆方向であればが陽圧に振れる。ノズルよりのガス噴出量がHFOの振幅になる。モーターの回転数はHFOの振数になる。(図;HFO機構解説図)
5.制御ソフト
各機能の説明
1)トリガー方式
 圧トリガー方式である。従来のものと特別変わった機構でないのに、なぜPTVが可能かと言えば、バルブレスの呼吸回路にその理由を求めることができる。バルブがないのでバルブの作動に伴う副次的な圧の変動が少なく、そのために、高感度の設定にしてもオートサイクルを惹起することなく、純粋に患者の吸気努力を圧の変化として捉えることが可能になっている。
2)CMV
 CMVは圧プラトーで与えられる。呼吸数を少なくすればIMVになる。
3)PTV
 自発呼吸にトリガーして強制換気が与えられる。トリガーを認識できないときはCMVで設定された回数がバックアップ回数になる。呼吸数の表示内容はトリガー換気回数になるので、バックアップ回数を確認するにはCMVにモードを切替えて確認する。
4)SIMV
 SIMVサイクルの前半50%がトリガーウィンドーである。この期間には一回だけ強制換気を送る。トリガーウィンドー中にトリガーがなければ非同期強制換気を送る。トリガーバックアップは、患者の吸気努力をうまくトリガーできない時のために用意されているもので、バックアップ回数はSIMV回数である。無呼吸に対するバックアップは用意されていない。
5)HFO
 CMVの吸気相、呼気相、その両方、ならびにCPAPに連続的HFOをする、4方法を選択できる。
6)出力
 圧波形(アナログ)とデジタル(RS423)がオプションで用意されている。
6.操作体系図;SLE2000操作パネル図;SLE200HFO操作パネル
1)CMV
 酸素濃度、呼吸数、吸気時間を設定した後、モードをCMVにする。I:E比は自動的に演算して表示される。PEEP/CPAP圧の設定は圧モニターの表示をBASEに切り替えて数値を見ながら希望の数値にする。INSP.PRESSURE(吸気圧)の設定は表示をPEAKに切り替えて希望の数値に調整する。次にアラームの設定を行う。Low CPAPの設定は設定値-2cmHO程度に、PIPはINSP.PRESSUREの設定値と同じ値に調整する。
2)PTV
 CMVモードでバックアップ条件を設定した後、モードをPTVに切替える。CMVモードでは換気回数の表示は設定値が表示されるが、PTVモードでは、トリガーされた換気回数(1分ごとの実測値)が表示される。バックアップ状態では"TRIGGER BACK-UP"のLEDが点滅し、ビープ音が鳴る。トリガー感度を1より徐々に高め、バックアップ状態よりPTV状態になった時点が適切な感度となる。この時にLEDの点滅とビープ音は停止する。
3)SIMV
 PTVモードで、適切な作動状態を確認した後、SIMVモードに入る。
4)HFO
 希望の振動数、振幅、HFOを加重する時相(CMVの吸気相、呼気相、もしくは連続)を選択する。振幅の大きさは圧波形のディスプレーを見ながら設定する。
5)吸気圧波形
 CPAP以外のいづれのモードでも設定可能。換気回数を60回以上に設定した場合には、暫増波を選択すると正しく機能しない場合がある。
7.モニター、アラーム機能
1)低PEEP/CPAP圧、PIP圧がモニターされている。PIP圧+/-4cmHOの範囲を逸脱するとアラームが作動する。
2)フレッシュガス圧はETコネクター直前でリストリクターで減圧されているが、減圧前の圧がセンサーでモニターされている。圧が80cmHO以上になれば"BLOCK"を警報し、圧が17.5cmHO以下になれば"LEAK"を警報する。
3)呼気ブロック駆動圧(PIP圧を発生する)はDRIVING PRESSURE GAUGEで読み取れる。
4)CPU作動異常時にはVENT.INOP.が警告する。
5)HFOアラーム
 オシレータのモーターの異常を示し、その際にはモーターの回転を停止させ、HFOのジェット流も停止させる。
8.ディスプレー機能
 設定呼吸数、トリガー回数、I:E比、回路内圧、酸素濃度がデジタル表示される。SLE-2000 HFOモデルには気道内圧グラフィックディスプレーが設けられている。
9.患者回路構成、加湿器図;SLE2000患者回路図
10.日常のメンテナンス
1)呼吸回路は専用回路(ディスポ、再使用型がある)を使用する。
2)呼気ブロックは洗浄滅菌する。オートクレイブ可能である。
3)再使用型のフィルターはオートクレイブのみ可、呼気側のディスポのフィルターは交換する。
4)月に一回、ブレンダーを21%と100%に合わせ、酸素濃度の表示を確認する。誤差があれば調整する。もし100%に調整できない時は、Oセルを交換し再調整する。PIPを50cmHOにした時の気道内圧計の誤差が3%以内であるのを確認する。駆動圧計の読みが40cmHOの時にPIPの値が35〜45cmHOであるのを確認する。
11.定期点検
 必ずサービスエンジニアにより行う。
1)5,000時間もしくは12ヵ月
 外観や内部の清掃、配線、配管のチェック、内部バッテリー端子の点検、バッテリー交換。電気回路、ニューマティック回路の点検、必要なキャリブレーションをする。
2)10,000時間もしくは24ヵ月
 酸素セル、ブレンダー、電磁弁SV-1、PIP,CPAPレギュレーターを交換する。電磁弁SV-2,SV-3、チューブやコネクター、バッテリーホルダー、圧リリーフ弁、その他の部品は、必要なら交換する。
12.欠点
1)換気量のわりにガス消費が多い。
2)適応できる患者の分時換気量の上限が低い。HFO+でこれは改善された。